no pat answer, no grapevine

一見正しそうなことや噂になんか流されない。

【書評】統計学が日本を救う(中公新書ラクレ)

統計学が日本を救う(https://www.amazon.co.jp/dp/4121505662)』は、『統計学が最強の学問である』で有名な西内啓氏による、日本の社会問題にかかる、統計学からみた視点と解決策がテーマの一冊である。すなわち、統計学そのものに関する書籍ではない。


本書は4章構成となっており、その要点を個人的にまとめると、以下のようになる。
1.高齢化の本質は高齢化ではなく少子化である。1990年代以降さまざまな少子化対策が講じられてきたが、子育てのコストをゼロにするという真に必要な政策がとられてこなかった。

2.現在でも貧困に陥るリスクが壊滅したわけではない。米国の「ペリー幼稚園プログラム」を参考にするべきである。そうしたプログラムによる失業率・犯罪率の低下に加えて、所得の増加や、高齢者の就業率上昇が効果的である。また、先進国の社会保障制度史を貧困者との関係で明らかにしている。

3.高齢者によって使われる医療費の割合が上昇しているが、これは高齢者1人あたりの医療費増加に起因する。実は効果がそれほど大きくない慢性疾患の治療などにコストがかかっており、医療技術評価や包括払いの推進が有効である。また、予防医療を過大視してはならない。介護期間を短縮化するわけではなく、介護期間の先延ばしにすぎないからだ。高齢者の就業率を引き上げるほうが効果的である。

4.このように、お金で解決できる社会問題はまだまだあるので経済成長は必要である。その際、人口減少は、経済成長の阻害要因ではない(単純な人口増加が経済成長をもたらすわけではない)。1人あたりGDPに着目して、学力向上や研究開発投資の拡大が求められる。ただし、人口密度の維持は生産性に大きく影響する。いずれにせよ、ランダム化比較実験などにいち早く取り組んで、有効な施策を見出すことが必要である。

 

少子高齢化の背景は高齢化ではない(平均余命は長い間大きく変化していない)ことや、医療費の配分には見直し余地があること、まだまだお金が必要なので経済成長は必要であるといった主張は極めて説得的である。加えて、こうした主張がデータやエビデンスに基づいて記述されてる点は見習うところが多い。

人口問題はある程度予測可能であるにも関わらず、現実に問題となるまで気づかないことが多い。本書で扱われているような問題―とくに少子化―は、1990年代に対処せねばならなかったことは、反省せねばならないだろう。遅きに失するがなにも手を打たないわけにもいかない。その意味でも多くの考えるヒントを本書は与えてくれているのではないだろうか。