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統計データで2020年を振り返る(鉱工業生産指数編)

 あけましておめでとうございます。

 2020年は経済指標の面でも激動の1年となりました。経済指標のなかでは生産に関する指標は回復をしているといわれています。今回は日本の鉱工業生産指数を用いて,2020年を振り返ってみたいと思います。

  手始めに鉱工業生産指数の長期的な動きを振り返ってみましょう(図1)。2020年入り後は5月にボトムをつけたのち回復を続けてきましたが,直近の2020年11月は,10月から横ばいとなりました。また,予測指数によると,12月は減少する可能性が高いとのことです。緊急事態宣言が解除されて以降,企業の生産活動は消費などと比べて回復が早いといわれてきましたが,このところは回復しているとはいえ,夏頃にみられた急速なものとは異なっているようです。むしろ,2018年後半からみられている減少傾向のトレンドに戻りつつある,とみることも可能かもしれません。

鉱工業生産指数の推移

図1:鉱工業生産指数の推移

 このように,このところの鉱工業生産指数はCOVID-19が広がる前の水準を上回って回復しているとはいえなさそうです。こうした点をよりわかりやすく確認するべく,感染が拡大する前である2019年の平均を100として比較してみたのが図2となります。

 この図をみると,日本の主力産業である自動車工業が,5月以降,力強く回復している姿が確認できます。5~7月にみられたような急回復はさすがに10~11月にはみられていませんが,2019年の水準に戻りつつあるといえるでしょう。ただし,先行きについては,世界的な需要をはじめさまざまな要因が作用するとみられるので,さらなる牽引力として期待できるかどうかは定かではありません。 

2020年の鉱工業生産指数の足取り

図2:2020年の鉱工業生産指数の足取り

 ところで,自動車工業以外の動きはどうなっているのでしょうか。図2と同じ方法で基準化をして,COVID-19前の水準を超えている業種がないかと確認してみたのが,図3となります。11月の時点で100を超えていたのは2業種でした。

 まず,ひとつめの電子部品・デバイス工業は,夏場以降増加を続けています。より細かい品目をみると,集積回路など,スマートフォンといったITに関連しそうな品目が増加しています。こうしたトレンドは,COVID-19によって世界がデジタル化していくという話を最近よく耳にすることからすると,今後も続く可能性があります。
 もうひとつ100を超えている汎用機械工業をみてみましょう。細かい品目の動きを調べてみると,11月はボイラ・原動機の大幅上昇が寄与しました。また,10月の上昇に寄与した運搬装置は11月の上昇には寄与していません。このように,特定の品目における上昇が,結果としてこのところの指数増加につながっているとみることができます。もしかすると,こうした品目における増加になにか背景があるのかもしれませんが,筆者は今のところ見いだせていません。

COVID-19前の水準を超えている業種

図3:COVID-19前の水準を超えている業種

 ここまで鉱工業生産指数を使って2020年を振り返ってみました。国内の生産活動は,緊急事態宣言解除後,自動車工業の急回復に支えられてきましたが,このところは電子部品・デバイス工業など別の業種にバトンタッチしつつあるのかもしれません。2021年の生産がどういう道をたどるかは分かりかねますが,日本の基幹産業である自動車工業や関連する産業の推移とともに,グローバルなデジタル化に対する需要や設備投資の動向がどうなっていくのかが鍵になるといえそうです。