no pat answer, no grapevine

一見正しそうなことや噂になんか流されない。

マイナス金利についての覚書

 「マイナス金利」が話題となっている。マイナス金利とは,満期時まで保有すると損をしてしまう状態をいう。すなわち,利子がマイナスという意味ではなく,満期まで保有した際の利回り──{利子+(額面価格-購入価格)}÷購入価格×100と表せる──が負となることを意味する。

 実際,つい最近,国債入札時や流通時の利回りがしばしばマイナスとなり,償還期間と利回りの関係を表すイールドカーブが年限5年程度までゼロを下回った。マイナス金利が長期化するのではないかとの懸念が拡がった。

 満期保有時までの利回りがマイナスであれば損失が生じる。従って,投資家は購入を控え,債券価格が下落(金利が上昇)するはずである。ところが,長期化を懸念するほどマイナス金利が続いてしまった。何かメリットがなければ,このような現象は起こらない。本稿では,マイナス金利においても取引が行わる理由について,債券市場における主要プレーヤーのひとつである金融機関を念頭において考えてみることとする。

 まずは,マイナス金利であっても,マイナス幅がさらに拡大するという期待の存在が考えられる。すなわち,昨今の低金利は金融緩和によるものが大きく,中央銀行が金融緩和政策を続けることに強いコミットメントを示していることからすると,マイナス金利であっても中央銀行が買い取るとの見通しに基づいて,購入をするという考えである。

 次に,業務遂行の観点から,「コスト」として債券を保有しなければならないという事情が考えられる。1つ目は,現金として保有することの限界が挙げられる。低利回りで運用先が見当たらないということであれば,現金のまま保有することも選択肢となりうる。しかし,大量の現金を保有するには巨大な金庫が必要となり,効率的ではない。2つ目は,債券の担保としての側面である。決済やデリバティブ取引には,債務不履行時への備えとして担保が必要となる。その際,リスクフリーかつ流通量の多い国債がもっとも手軽である。

 さらに,海外投資家の存在が考えられる。日本国内の金利が低水準で推移する中,円転コストがマイナスとなり,そのマイナス分でマイナス金利による損失をカバーできる限り,海外投資家にとっては投資メリットがあるといえる。

 金利はプラスであることが一般的であるので,マイナスとなったことは衝撃的なようにみえる。しかし,日本においては過去にもマイナス金利を経験したことがあるだけでなく,諸外国においても観察される現象であり,決して珍しいことではない。とはいえ,本稿で指摘した要因が,どこかの水準を下限値として設定していると考えられる。それがゼロではなかったということだ。