no pat answer, no grapevine

一見正しそうなことや噂になんか流されない。

瑕疵担保責任の適用範囲拡大問題からみえたもの

   1.「権利の瑕疵」の概要

  財産権の移転を約する売買契約では,売主の債務は結果債務であり,所有権を完全に移転する必要がある。これを果たせないときは,売主は債務不履行責任を負うが,権利の瑕疵では415条ではなく,特別な債務不履行ルールとして561条から569条にかけていわゆる「権利の瑕疵担保責任」についての定めが置かれている(特別ルールに定められていない事項は債務不履行の一般ルールに服する)。

 権利の瑕疵にもさまざまなものがあり,民法では大雑把には下記の表のように定められている(瑕疵の内容に応じて担保責任の内容も異なる)。

 

 

 なお,強制競売のときは若干注意を要する。5681項において,債務者に対し,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができるとされているものの,570条で物の瑕疵には適用されない。5682項において,債務者が無資力であるときは,買受人は代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の全部又は一部の返還を請求できること,同3項において,①債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき,②債権者がこれを知りながら競売を請求したときには,買受人は債務者・債権者に損害賠償請求することが認められている。

 

2.気になる裁判例

 このように,任意規定ではあるものの,「権利の瑕疵」について詳細に規定されているなかで,566条と568条を類推適用した裁判例がある(最二小判平成8126日(民集50-1-155))。裁判要旨は以下のようなものである。

「建物に対する強制競売において、借地権の存在を前提として売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず、代金納付の時点において借地権が存在しなかった場合、買受人は、そのために建物買受けの目的を達することができず、かつ、債務者が無資力であるときは、民法五六八条一項、二項及び五六六条一項、二項の類推適用により、強制競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その返還を請求することができる。」

 まず,強制競売における売却で,前提としていた借地権が存在していなかったという瑕疵があったのだから,強制競売における瑕疵担保ルールである568条が類推適用されることはおそらく問題がないと考えられる。

 次に,5662項(目的物の利用制限という瑕疵がある場合)を類推適用している点は一考を要する。本条の「売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合」を類推適用したものと考えられる。たしかに,地役権がなければ建物の利用が不可能である(少なくとも価値を高めることがないと設定できない)といえるので,「瑕疵あり」と言えるかもしれない。建物が存続する前提となる借地権が実は存在していなかったという本判例のようなケースでは,地役権の不存在による建物価値の下落と機能面で似ており,裁判所はこの点に着目したと推測される。

 しかし,地役権が不存在でも(価値は低いが)建物は存在するのに対して,借地権の不存在は当該建物の収去という帰結をもたらしかねないという意味で,5662項の想定よりも価値の棄損具合が大きいわけだから,具体的にどのような瑕疵担保責任を認めるのかについては別途検討する必要があるように思われる。その際,本判例では買受人の善悪ではなく,強制競売の手続において記載された書類の内容に依拠していることが目を引く。

「現況調査報告書に建物のために借地権が存在する旨が記載され、借地権の存在を考慮して建物の評価及び最低売却価額の決定がされ、物件明細書にも借地権の存在が明記されるなど、強制競売の手続における右各関係書類の記載によって、建物のために借地権が存在することを前提として売却が実施されたことが明らかである場合には、建物の買受人が借地権を当然に取得することが予定されているものというべきである。」

民法上の規定では買主の善悪を基準に担保責任の範囲が画されることが主たる場合であることを踏まえると,瑕疵担保責任に関する規定の類推適用で,強制競売という公的手続における書類の記載内容によって,契約の解除という担保責任を認めていることは,新たなる判例展開のように思われる。瑕疵担保責任規定の類推適用が争われる事案において,強制競売における本判例のような過誤がどの程度の水準であれば瑕疵担保責任を是認するのか,また,強制競売以外にも瑕疵担保責任の可否を決する基準が存在するのかについて,更なる精緻な議論が必要となろう。